RAID(Redundant Array of Independent Disks)は、複数のディスクを組み合わせて一つのストレージシステムとして利用する技術です。RAID3は、バイトレベルのストライピングと専用のパリティディスクを使用することで、高速でのデータ転送とデータの冗長性を両立させているRAIDレベルの1つです。本記事では、RAID3に焦点を当て、その仕組みやメリット、適用例についてわかりやすく解説していきます。
RAID3とは?
RAID3は、複数のディスクにデータをバイト単位で分散して書き込み、専用のパリティディスクを使用してデータの冗長性を確保するRAID構成の事を指します。
RAID3の仕組み
RAID3では、データがバイト単位で複数のディスクに分散され、専用のパリティディスクがデータの冗長性を確保します。以下にその具体的な仕組みを説明します。
・ストライピング
データはバイト単位で各ディスクに分散して書き込まれます。例えば、データブロックが「A, B, C, D」の場合、ディスク1には「A」、ディスク2には「B」、ディスク3には「C」、ディスク4には「D」といった具合に分散されます。
・パリティディスク
専用のパリティディスクには、各ディスクのデータを XOR 演算したパリティ情報が格納されます。このパリティ情報を利用することで、RAID3で構成したディスクのうち、1台のディスクが故障した場合でもデータを復元することが見込めます。
RAID3のメリット
RAID3には以下のようなメリットがあります。
・高速な連続データ転送
RAID3でNASやサーバーを構築するとデータがバイト単位でストライピングされるため、大容量の連続データを高速に転送することができます。これは、ビデオ編集やデータストリーミングなどの用途に非常に適しているものです。
・冗長性の確保
専用のパリティディスクがあることで、RAID3でNASやサーバーを運用した際には1台のディスクが故障してもデータを復元することが見込めます。これにより、データ保存の信頼性が向上するものです。
RAID3のデメリット
一方で、RAID3にはいくつかのデメリットもあります。
・パリティディスクのボトルネック
すべてのパリティ情報が1つのディスクに集中するため、書き込みパフォーマンスが低下する懸念があります。特に高頻度で書き込みを行う環境では、この点が問題となることがあるものです。
・パリティディスクが故障すると全てのデータが失われる
専用のパリティディスクが故障した際には、RAID3機器全体のデータが失われる事態に直結してしまいます。このため、パリティディスク自体の信頼性が重要となるものです。
RAID3の具体的な構成例
例えば、RAID3を構成するために4台のディスクを使用する場合には、3つのディスクにデータがバイト単位でストライピングされ、残りの1つのディスクにパリティ情報が格納されることになります。各ディスクのデータは次のようになります。
ディスク1: データバイト 1, 4, 7, 10, … |
---|
ディスク2: データバイト 2, 5, 8, 11, … |
ディスク3: データバイト 3, 6, 9, 12, … |
ディスク4: パリティ情報 |
RAID3での運用が好ましい機器
RAID3で運用される機器例を紹介します。
1.ビデオ編集システム
理由:ビデオ編集では、大容量の連続データを高速に読み書きする必要があります。RAID3はバイトレベルのストライピングを行うため、連続データの転送速度が速く、ビデオ編集作業に適しています。
2.データストリーミングサーバー
理由:ストリーミングサーバーでは、連続してデータを配信するための高速な読み取り性能が求められます。RAID3のストライピングにより、データの連続読み取りが効率的に行えることが見込めます。
3 科学技術計算やシミュレーションシステム
理由:科学技術計算やシミュレーションでは、大量のデータを高速に読み書きする必要があります。RAID3は、このような用途に対しても有効です。
・機器の選定例
1.高性能なRAIDコントローラー
製品例:LSI、ArecaなどのRAIDコントローラーメーカーが製造している高性能なRAIDコントローラー。
理由:高速なデータ転送を実現するためには、性能の高いRAIDコントローラーが必要です。
2.高速かつ大容量のハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)
製品例: Western Digital、Seagate、Samsung、東芝などのメーカーが製造している高速での稼働が可能なHDDやSSD。
理由:データの読み書き速度を最大限に引き出すために、高速で信頼性の高いディスクが必要になります。
3.高信頼性のストレージシステム
製品例: Synology、QNAP、Dell、HPなどのストレージシステム。
理由:高信頼性のストレージシステムは、RAID3での運用をサポートし、大容量のデータを効率的に管理するために必要です。
↓Synology製のNASに不具合が起きた時にはこちらの記事もご確認ください。
4.冗長電源および冷却システム
製品例: APC、CyberPower、Schneider Electricなどの冗長電源および冷却システム。
理由:RAIDシステム全体の信頼性と稼働時間を確保するためには、安定した電源供給と適切な冷却が不可欠です。
これらの機器を組み合わせることで、RAID3のメリットを最大限に活かすことが見込めます。しかしながら、RAID3のパリティディスクのボトルネックを考慮すると、RAID5やRAID6など、他のRAIDレベルの方がNASやサーバーを運用する上で採用されることが多いものです。
↓RAID5の詳しい解説やデータ復旧方法は下記の記事でも紹介しています。
RAID3と他のRAIDレベルの比較
RAID3を他の主要なRAIDレベル(RAID0、RAID1、RAID5、RAID6、RAID10)と比較すると、以下のような違いがあります。
・RAIDレベルの比較表
項目 | RAID0 | RAID1 | RAID3 | RAID5 | RAID6 | RAID10 |
---|---|---|---|---|---|---|
データ分散方式 | ストライピング | ミラーリング | バイトレベルのストライピング | ブロックレベルのストライピング + パリティ | ブロックレベルのストライピング + デュアルパリティ | ストライピング + ミラーリング |
冗長性 | なし | 高 | パリティディスク1枚 | パリティディスク1枚 | パリティディスク2枚 | 高 |
読み取り速度 | 非常に高速 | 速い | 速い | 速い | 速い | 非常に高速 |
書き込み速度 | 非常に高速 | 低 | パリティディスクのボトルネック | パリティ計算が必要 | パリティ計算がさらに複雑 | 速い |
ディスク使用効率 | 100% | 50% | (n-1)/n | (n-1)/n | (n-2)/n | 50% |
障害耐性 | なし | 1つのディスクまで耐性あり | 1つのディスクまで耐性あり | 1つのディスクまで耐性あり | 2つのディスクまで耐性あり | 1つのディスクまで耐性あり |
推奨用途 | 高速データ処理 | 重要データの保護 | 大容量連続データ処理 | 一般的なストレージ用途 | さらに高い信頼性が求められる用途 | 高速かつ冗長性が必要な場合 |
ディスク数の最小要件 | 2 | 2 | 3 | 3 | 4 | 4 |
↓RAIDの種類やRAIDごとの復旧方法についてはこちらの記事でも紹介しています。
RAID機器にトラブルが発生した時には
RAID3を含むRAID構成では、トラブルが発生した際の対処法が重要となります。以下に、RAID機器にトラブルが発生した場合の一般的な対応手順を示します。
- 警告確認とログの確認
- バックアップの確認
- 故障ディスクの特定
- 故障ディスクの交換
- リビルドの実施
- データの確認
- データ復旧の専門業者に相談する
1.警告確認とログの確認
RAIDコントローラーや管理ソフトウェアからの警告メッセージを確認し、エラーログをチェックします。
2.バックアップの確認
最新のバックアップがあるか確認しましょう。定期的なバックアップは、トラブル発生時のデータ復旧に役立ちます。
3.故障ディスクの特定
故障したディスクを特定します。RAID3では、パリティディスクやデータディスクの故障が影響を及ぼすため、どのディスクが故障しているかを正確に把握することが重要となります。
4.故障ディスクの交換
故障したディスクを新しいディスクに交換します。RAIDコントローラーや管理ソフトウェアを使用して、交換作業を行います。
※RAIDを構成しているディスクが1台故障した際には複数のディスクが壊れていることがほとんどであるため、故障が疑われるディスクを交換してもデータの復旧が難しいことが多く、注意が必要となります。RAID機器から早く安く確実にデータを取り出したい場合にはプロのデータ復旧業者に相談することを優先しましょう。
5.リビルドの実施
新しいディスクが追加された後、RAIDアレイのリビルドを開始します。
※ディスクが1台故障した際には複数のディスクが同時に壊れていることが大半でリビルドを行うことで全てのディスクが取り返しのつかないくらい故障して後悔する結果に直結することも多いため注意が必要となります。
6.データの確認
リビルドが完了したら、データが正常に復旧されているかを確認します。
7.データ復旧の専門業者に相談する
RAID機器に保存しているデータが大事・無くなったり取り出しができなくなったりしたら困ると少しでも考えた場合には余計な作業を進めて後悔する前にプロのデータ復旧業者に相談することが解決への近道になりえます。RAID3、RAID5、RAID6、RAID10などRAIDレベルに限らずNASやサーバーにアクセスができない・起動しない等のトラブルが発生した時には個人で対応できない問題が生じていることが大半です。そんな時に電源の入り切りや再起動、ケーブルの抜き差しなど簡単にできることを試すだけで取り返しのつかない状況に陥ってしまうこともありえます。失敗したくない・早く安く確実にRAID機器からデータを取り出したいと考えた場合には専門家に相談することを優先しましょう。
まとめ
RAID3は、バイトレベルのストライピングと専用のパリティディスクを使用することで、高速な連続データ転送と冗長性が期待できるRAIDレベルの1つです。特にビデオ編集やデータストリーミングなどの大容量データを扱う環境に適していますが、パリティディスクのボトルネックなどのデメリットがある点も考慮する必要があります。RAIDはNASやサーバーで大事なデータを保存する際に導入される仕組みですが、どのRAIDレベルであってもある日突然、機器が使えなくなってしまう事があり、データを失いたくない場合には慎重な対応が求められるものです。万が一、RAID機器に不具合が出て困った時にはプロのデータ復旧業者に相談することも検討してみましょう。